フリーコンサルタントにおけるSAP(ERP)導入案件
Post Date: 2020-08-31
デジタル化が進み、日々複雑化していく社会の中で、ERP導入によってシステムの刷新を図り、競争力を高めている企業が増えています。今回はERPの代表格ともいえるSAPと、SAP(ERP)とフリーコンサルタントの関わりについて説明していきたいと思います。
SAPとは
SAPはドイツ中西部にあるヴァルドルフに本社を置くヨーロッパ最大級のソフトウェア企業、並びにSAP社が出しているシステムパッケージの名称です。
主にビジネス向けソフトウェアを開発しており、売上高ではマイクロソフト、オラクル、IBMに続いて世界第4位を誇る、世界的な大企業です。特に大企業向けのエンタープライズソフトウェア市場においては圧倒的なシェアを保持しており、企業の基幹システムであるERP分野においては世界一を誇っています。
―SAPとERPの違いとは?
結論から申し上げますと、SAPはドイツSAP社が製造している“ERP”パッケージのことを指します。ERPとは、Enterprise Resource Planning の略称であり、「企業資源計画」を意味します。これは企業全体を経営資源の有効活用の観点から総合的に管理し、経営の効率化を図るための概念、及び手法を指します。これを実現するための総合的ソフトウェア(総合基幹業務システム)がERPパッケージです。つまりSAPとはERPに内包されるものであり、決して異なるものではありません。
―SAPのメリット
様々なERPパッケージが存在する中で、なぜ世界中の大企業はこぞってSAPを使用するのでしょうか。真っ先に考えられる理由としては、SAPは企業における会計システム、物流システム、販売システムなどからなっており、それぞれがデータ的に一元化されているという事です。これによって、リアルタイムな分析が可能となります。
もう一つ他のERPパッケージとの差異を挙げるならば、他のERPパッケージが各モジュールにおいて一定の機能を果たすことが重視されており、業務の変動が激しいビジネス社会においてはいずれ矛盾が発生してしまうのに対し、SAPはパッケージそのものが業務プロセスになるように開発されている製品であるため、矛盾や不整合が発生しない仕組みになっているという点です。
SAPは30種類以上の言語で翻訳されており、海外に拠点を構える企業とも連携がとりやすいというのも魅力的なポイントの一つでしょう。
ほんの最近まで、SAPのデメリットとして相当額の導入費用が掛かってしまうという点が挙げられていました。しかし、「クラウドERP」の登場によってERP製品を低コストで使用することが可能になったため、さらに多くの企業がERP導入に乗り出すことが可能になりました。
SAP(ERP)の導入拡大
社会のデジタル化が進み、業務が多様/複雑化していくにつれてSAPをはじめとするERPの需要も拡大してきました。1992年にSAP ジャパンが設立すると、様々な国内企業がSAPの導入を始めました。SAPジャパンは公式には発表していませんが、現在では国内約2000社がSAPのERPパッケージを導入していると見られています。SAPではないERPパッケージの導入も盛んに行われており、某日系大手製造会社は純国産ERPの導入プロジェクトを開始し、業務システムを統一することで、円滑な海外進出を進めています。
―ERP導入が盛んな理由
ではなぜ近年ERP導入がここまで盛んに行われるようになったのでしょうか。そこには日本企業が懸念を強めている、「2025年の崖」問題があります。これは、老朽化や複雑化、ブラックボックス化している既存の基幹システムにのせいで新しいデジタル技術などに予算が割けず、企業のグローバル競争力が低下してしまうという問題です。この問題を乗り越えるために、多くの企業はERP導入を推進し、基幹システムの刷新を図っています。さらに、SAP ERPの保守サポートが2025年で終了してしまうことも大きく関係しています。SAP社は、今後のIoT時代を見据え、新しいアーキテクチャで新しいERPを作り出す事を決定しました。それに伴い従来のSAP ERPの保守サポートが2025年に終了してしまうため、多くの企業は新しいSAP ERPパッケージへの移行を急いでいます。
*「2025年の崖」についての詳しい説明はこちらの記事をご参照ください
(出典:経済産業省 DXレポート)
フリーコンサルタントにおけるSAP(ERP)案件
フリーコンサルタントが取り扱う案件においては、PMO案件が大きな比重を占めます。PMOとはProject Management Office の略で、日本PMO協会によると、「組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う部門や構造システム」のことです。つまり複数のプロジェクトにまたがってマネジメントを行う組織あるいはその執務空間などのことを指します。PMOの導入によって、プロジェクトのリソース分配の見直し、プロジェクトパフォーマンスの可視化、プロジェクトの品質向上、複数のプロジェクト間での業務標準化といった多くのメリットが得られます。SAPに代表されるERPパッケージの導入案件もPMO案件の内の一つです。
PMOについてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事も併せてご覧ください。
SAPはERP分野において圧倒的シェアを誇ります。そのためフリーコンサルタントが請け負う案件も必然的にSAPを取り扱うものが多くなっています。現在、深刻なIT人材不足とSAP導入に拡大により、フリーコンサルタントの需要は相当高くなっています。具体的にはどのような案件を請け負うのかを見てみましょう。
―コンサルタントの役割
SAPの製品群のラインナップは時代の変遷とともに多様化していきました。企業はその中から自分達に最も適したシステムを見つけ出さなければなりません。さらに、ITシステムは購入しただけでは機能しないので、企業の実態に合わせて開発やカスタマイズを行う必要があります。企業活動の根幹を成すシステムですから、実装・運用を円滑に進めるために入念な準備を重ねる必要があります。こうした作業を全てユーザー企業のみで行うのは非常にハードルが高いです。そこで、クライアント企業の基幹システム導入をサポートするのがコンサルタントの役割です。クライアントの現状を分析して既存の業務や資産を整理し、それらを管理するための基幹システムとしてどのSAP(ERP)パッケージが適切かを見極め、システムを企業に最も適した形に設計・カスタマイズしていくという一連のプロジェクトを支援します。
―単価相場は高い
需要が高まっていることや業務ハードルが高いことなどにより、フリーランスとしての月単価は相当高いと言えます。1年以上のSAPコンサル経験をお持ちの場合、月単価120万円~150万円は固いでしょう。SAP導入経験はないものの、ERP導入のPMO経験をお待ちである、という場合にも高単価の案件を見込むことができます。
もしも、グローバルでのPM経験やユーザー・ベンダー両方でのSAP導入経験、上流から下流までのSAPのシステム理解などを持ち合わせていた場合、月300万円~400万円というレンジに届く場合があります。但し、これらの案件を取り扱うことができる人材は、元Big4クラスのビッグファームか、SAPジャパン出身者がほとんどです。
―求められるスキルや経験
基本的に、フリーコンサルタントには実績があるスキルに対してオファーが行われるため、未経験領域へのプロジェクト参加は難しくなります。ではどういったスキルや経験が求められるのでしょうか。
SAPコンサルタントとしてプロジェクトに参加する場合、SAPの製品群に関する深い知識とスキルを身に着けている必要があります。また、ERPシステム自体に関する知識はもちろん、人事・財務・会計などシステムで管理する業務に対しての知識も必要不可欠です。企業の経営課題解決のためのERP導入を支援する、というのがコンサルタントの業務ですので、やはりコンサルタントとしての経営課題解決プロジェクトへのアサイン経験は豊富に必要だと思います。
フリーコンサルタント向けのSAP案件事例
クライアント:大手製造業
稼働 :100%
業務内容 :SAP S/4HANA 導入プロジェクトのユーザー側支援
クライアントの要件整理
人材要件 :上記業務の経験/SAPの導入知識/ユーザー側でのプロジェクト参画経験
クライアント:日系メーカー
稼働 :100%
業務内容 :S/4HANAへのFI新規設計構築の支援業務
既存システム(資産システム/経費システム/連結システム等)との連携
人材要件 :基幹システム導入経験/プロセス系の導入経験または専門知識
クライアント:食品メーカー
稼働 :100%
業務内容 :CO領域のアドオン機能設計
人材要件 :SAP CO導入経験/原価計算・予算管理の業務知識
クライアント:物流会社
稼働 :100%
業務内容 :MicroSoft Dynamics AX導入支援
人材要件 :なにかしらのERP製品で在庫/販売領域での導入経験
クライアント:国内大手化学メーカー
稼働 :100%
業務内容 :SAPグローバル展開の支援/PPおよびQMモジュールに関してのコンサル業務
人材要件 :SAPのPPモジュールの導入経験/コンフィグやカスタマイズの動作検証経験
クライアント:日用品メーカー
稼働 :100%
業務内容 :SAP導入支援プロジェクトにて、テストフェーズ全般に関わる業務
人材要件 :SAP、SDMMの導入経験者/SDMMの開発経験者
クライアント:半導体業界
稼働 :100%
業務内容 :会計領域(AP/AR)へのSAP導入支援/FIコンサルタント
人材要件 :SAPにおけるAP/AR業務プロセス及び標準機能スキル/経理ユーザーへの業務指導
クライアント:製造業
稼働 :100%
業務内容 :COコンサルタント
人材要件 :SAP導入PJのCOモジュールリーダーとして2サイクル以上の経験
クライアント:大手食品会社
稼働 :100%
業務内容 :FI/COコンサルタントとしてS/4HANAへ再構築プロジェクト
人材要件 :FI/COコンサルタントとしての経験/SAPに関しての知見
クライアント:中堅製造業
稼働 :100%
業務内容 :SAP基幹システム構築による、各フェーズの業務を担当するCOモジュールリーダー
人材要件 :COコンサルタントとしての経験/UAT支援経験
まとめ
SAP(ERP)コンサルタントの仕事は、今後も継続して案件の発生を見込むことができます。近年では働き方改革の一環としてERPパッケージの導入を行う企業も増えてきており、将来性がある分野であるという事ができます。AIの機械学習機能を搭載したERPパッケージも提供が始まっており、今後このようなERPパッケージの導入プロジェクトも増えそうです。但し、SAP旧バージョンのサポートが終了し、新バージョンに移行する2025年以後は市場が縮小するという見解もありますので、フリーコンサルタントとしてSAP(ERP)と関わっていく際には動向に注意を払う必要があるでしょう。